JUST FOR
ONEDAY



 逢えなくなって、どれぐらい経つのだろうか・・・。
 自ら望んだ結論のはずだったのに、今や心が死んだようになって、何も感じない。
 この心は、もう二度と、永久凍土のように閉ざされたまま、開くことはないだろう・・・。
 総てを癒し、輝かせてくれる”太陽”は、もう我の傍にはない。
 どんなに・・・、たとえどんなに我らが心を通わせあっていても、行く道は決して交わることがないのだから。
 −−−判っていたから、たった1秒でも無駄に出来なかった。
 おまえがほんの一瞬でも向日葵のような微笑を浮かべれば、我はそこに永遠の時を注ぎ、心に刻み込ませるようにして、来るべき別れに備えていた。
 なのに・・・、我は・・・。

 レヴィアスは、自嘲気味な微笑をフッと浮かべると、バルコニーから見える、蒼く光る月を見上げる。
 今夜の月齢は15。怪しい光が、彼の不思議な黄金の眸に反射し、さびしげな影を作る。
 明日はいよいよアンジェリークたちがこの城にやって来る。誰よりも愛しい女性と対峙しなければならない運命の日。
 そう思うと眠れなかった。
「アンジェリーク・・・、おまえは我を恨んでいるか?」
 レヴィアスの低くよく通る声が虚しく響き、彼は苦しげに瞳を閉じた。
 しかし、月の怪しい光は、彼を闇の世界に閉じ込めていてはくれない。
 レヴィアスは、ゆっくりと瞳を開ける。
 彼はいつの間にか、月の怪しい光に魅了されていた。まるで導かれるかのように、レヴィアスは、月の下に広がる森へと入っていった。

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 貴方は、私の心を全部持っていってしまったのよ・・・。
 逢えなくなって、
私は、あなたをどれだけ愛しているかを知りました。
 そして・・・、どれほど愛されていたのかも・・・。
 なのに、どうしてあなたは私を置いてきぼりにしたの!
 あなたがいれば、私はそれだけで幸せだったのに!
 逢いたい! 逢いたくてたまらない! 抱きしめて、私の名前を優しく呼んで欲しい!
 心が・・・、崩れてゆく・・・。

 アンジェリークは、どうしても眠れなくて、夜中に寝床を抜け出した。
 空を見上げると、満天の星空には、蒼い月が怪しく輝いている。
 明日はいよいよレヴィアスの城に乗り込む。 誰よりも愛しい男性と対峙しなければならない運命の日。
 苦しくて、苦しくて、いっそこのまま狂ってしまいたい。
「愛してるわ・・・、レヴィアス・・・」
 アンジェリークは、切ない溜め息を吐きながら、呪文のように愛しげに呟く。
 彼女は月を愛で、その怪しい光にいつのまにか魅了されていた。まるで導かれるように、アンジェリークは、月の下に広がる森へと入っていった。

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おまえを・・・
 あなたを・・・
失ったとき
世界は崩れ落ちた・・・

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 蒼い月は、深い森に中でも、その光を輝かせ、むしろ力を増してゆく。
 切れるように冷たい夜風は、心に寂寥感を与える。
 レヴィアスは、黒いマントを翻し、森の奥へと進む。
 アンジェリークは、薄い寝巻に体を震わせながら、森の奥へと進む。

二人が互いの姿を認めたのは、森の中心にたどり着いた時だった。
「アンジェリーク・・・!」
「レヴィアス・・・!」
 互いに声にならぬ声を上げ、見つめあう。
 逢いたかった・・・! 互いの瞳に映る愛しい者の姿に、想いを投影させる。
 レヴィアスは、一瞬、アンジェリークに手を伸ばそうとした。
 しかし、アンジェリークの為にならないことは、重々に判っていた。
 彼は何かを振り切るかのように手を引っ込めると、彼女に背を向け、もと来た道へと戻り始めた。
 血が滲むほど唇を噛み締め、苦渋の表情に顔がゆがむ。
「待って!!!!」
 悲鳴にも似たアンジェリークの声が、レヴィアスの心に突き刺さる。
アンジェリークの心の痛みが、そのまま痛みとなってレヴィアスを翻弄する。
一瞬躊躇したものの、レヴィアスは、また歩みを進める。
「いやぁぁぁぁぁ! もう私を置いていかないで!」
アンジェリークの悲痛なまでの涙混じりの絶叫は、レヴィアスは全身をびくりとさせる。
同時だった−−−−
アンジェリークは、全速力で彼の元に駆け寄り、そのまま背後から抱きつく。
「・・・・・・・・・!!!!」
 レヴィアスは、その背中に、自分が求めてやまない者の温かさと、涙の冷たさを感じた。
「行かないで・・・! もうあなたがいなくなるなんて、考えたくないの!」
「・・・・・・」
 優しい陽だまりのような温かさが、彼の心の凍土を溶かしてゆく。
「もう、こんな辛いことはいや! このままだと、心も体も死んでしまう・・・! あなたじゃなきゃだめなの!」
 レヴィアスは、その想いに答えてやりたい想いをかろうじて抑えながら、無言のまま立ち尽くす。本当は、言いたかった。
 同じ気持ちだと。アンジェリークだけを愛していると・・・。
 無言の彼の纏う黒い布がアンジェリークの涙で湿ってゆく。
「愛してるの・・・、あなただけよ・・・、レヴィアス!」
 アンジェリークの愛の溢れた悲壮な言葉に、レヴィアスはピクリと体を反応させる。
「アンジェリーク・・・・・・!」
 アンジェリークの言葉は、熱い情熱となり、レヴィアスの心の凍土に流れ込んでゆく。
 レヴィアスは、抱きつくアンジェリークの手に優しく触れる。
「レヴィアス・・・」
 アンジェリークも彼の微妙な変化を感じ取り、ゆっくりと力を抜く。
 レヴィアスは、体に巻きつかれていたアンジェリークの腕を、体から静かに外すと、彼女に向き直った。
 金と翠の瞳が、ゆっくりと、温かく、アンジェリークに向けられる。
「レヴィアス・・・」
 うっとりと小さな唇から愛しい男性の名が漏れる。それは、総てを託す言葉。
 レヴィアスは、アンジェリークを黒い布の中に招き入れると、そのまま、力強く抱きすくめる。
 アンジェリークの口からは、切なげな吐息が漏れる。
「−−−愛している・・・、おまえを誰よりも・・・」
 アンジェリークの唇に、レヴィアスの唇が降りてくる。
「・・・ん・・・・・・・ああ・・・」
 お互いの命を与え合うように。
 お互いの愛を伝え合うように。
 二人は、深く激しく互いの唇を求め、与え合う。

 愛している・・・。もう離したくない・・・。
 愛してる・・・。もう離れたくない・・・。

 切ないくちづけを交わした後、二人は木の下に腰を下ろし、互いに抱きあっていた。
 アンジェリークは、レヴィアスの広い肩に頭を凭れ掛らせ、彼に総てをゆだねている。
「−−−もう・・・、あなたから離れたくない・・・」
「−−−総てをなくすことになるぞ・・・」
「構わない・・・」
 恋人たちの切ない会話が交わされる。
「−−−今だけなら・・・、この1日だけなら、おまえを守ってやれるだろう・・・。 お互いに総てを捨てて逃げれば、すぐにつかまってしまうだろうから・・・。たった1日だけなら・・・、我らは時間を盗むことが出来る・・・」
 レヴィアスは、やるせなくアンジェリークを力強く抱きしめる。一生分の抱擁をするかのように。
「−−−あなたといたいの・・・!」
「この先おまえを守るのは我だけになる・・・。誰もが敵だぞ・・・。それでもおまえは・・・」
 レヴィアスが言い終わる前に、アンジェリークは彼を抱きしめることで答えを示す。
「−−−たった1日だけなら、我らは安全でもいられる・・・」
「構わない・・・。あなたとならたった1日しか残されていなくても、後悔はしない・・・」
 アンジェリークのカを顔には、後悔の色はひとつもなかった。むしろ、決意に充ち、生命力すら感じる。
 レヴィアスは艶やかな深い微笑を浮かべると、信じられないような慈しみのある眼差しをアンジェリークに向ける。
「探そう・・・、1日だけではなく、永遠に二人でいられる方法を・・・」
「レヴィアス・・・!}
 蒼い月の元、二人は誓いの口づけを交わす。
この後、二人を見たものはいない・・・。

コメント

”ZERO RING”に登録した記念に書いたレヴィxアンですが、かなり強引の上、ヘボいよなー(笑)このストーリーは、DAVID BOWIEが77年に発表した「”HEROES”」からのインスパイアです。この歌、本当に詩が最高によいのです。「たった1日だけならヒーローになれるんだ」という歌詞です。切なくしたかったけど、失敗。(TT)